舞台袖で、倒れそうになったり、過呼吸になったりしている方もいます。
そこでぜひ、呼吸法を知っておいて欲しいと思います。
レジュメのように書いている文章を見つけましたので、お借りしながら・・・。
バレエにおける呼吸法は「胸式呼吸に少し近い横隔膜呼吸」です。
なぜ「腹式呼吸」とは言い難いか?については・・・・・。
1.バレエには”引き上げ”る姿勢維持が必要とされるが、一般的に腹式呼吸とされる呼吸法では、腹部の筋肉(腹直筋、内腹斜筋、外腹斜筋、腹横筋)の伸縮が大きく、それが困難になる。
2.バレエにおける動作は、多くの場面において酸素を消費する方法で筋収縮のエネルギーを発生させる有酸素運動であるが、腹部の筋肉の伸縮を最小限に抑えつつ、必要にして充分な酸素供給を行うためには、単位時間当たりの換気量を増大させる(できるだけ多くの空気を肺に送り込む)必要がある。また、そのためには、ある程度の胸郭の広がりによって胸腔容積の確保が必要である。
3.バレエで正しいとされる姿勢における胸郭の大きさ(広がり、横経)は、2の条件を満たすために最小限でも最大限でもない個々人に適した中間位を保ち、且つ肋間(肋骨間)においては内・外肋間筋のわずかな収縮によってその幅が随時変化している。
ということが挙げられます。
実際、ヴァリエーションの後など、ダンサーの呼吸が荒くなっているシーンでは、お腹が激しく動いているように見えることもありますが、注意深く観察してみると、動いているのは鳩尾(みぞおち・限りなく肋骨に近い上腹部)の周囲で、これは横隔膜の伸縮によって二次的に起こっている現象であり、一般的な腹式呼吸に見られるような中~下腹部にかけての動きは一切ありません。
なお、吸うのは鼻から、吐くのは口からです。
鼻から吸うことで喉の渇きを最小限に抑え、口から吐くことで呼気の量を充分に確保し、それによってまた吸気に備えるのです。
ちなみに、バレエにおける呼吸法を、敢えて逆説的に小難しく言えば、「有酸素運動によって消費される酸素を補う為に発生する激しい胸式呼吸(※1)をできるだけ抑え、尚且つ中~下腹部の動きを少なく”引き上げ”る姿勢を維持し、安静時呼吸(※2)に近づけた呼吸法」です。これ重要です。
※1
努力呼吸とも言う。呼吸補助筋群(吸気時に胸鎖乳突筋、前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋。呼気時に内肋間筋、腹直筋、内腹斜筋、外腹斜筋、腹横筋。)を積極的に収縮させ、単位時間当たりの換気量を最大限にしようとする呼吸。そのため、胸郭や肩が大きく動く。
※2
主に横隔膜の収縮・弛緩によって営まれる。その収縮により横隔膜ドームが下降し肺をふくらませ、吸気を発生させる。呼気は筋肉を用いず、吸気時に伸展される肺や胸壁に蓄えられた弾性収縮力が受動的に肺を縮小させる。
要するに、「ホントはゼーゼー・ハーハーして苦しいけど、平静を装う。」ということです。
これがバレエにおける呼吸法の本質ではないかと思います。
忍者のように、音を立てずに呼吸も静かに。極めるのは大変です。(長谷)
「背中に空気を入れるように」という表現で指導が行われることもありますが、これは胸式呼吸をバレエに最適化する(※4)ためのもので、的を得た表現だと思います。
※4
”引き上げ”を維持し、”肩甲骨を引き寄せ”、クラシック・バレエにおける正しい姿勢を維持しつつ、胸式呼吸を実現する。
「”平静を装う”ために、胸も腹もできるだけ動かしたくない!」となると、多少動いても苦しいことが観客にバレる可能性が一番低い部位は、背中なんですよね。
「背中に空気を入れる」といっても、実際は肺以外のところに空気が入る訳ではありません。
分かりやすく体感するには、意図的に”引き上げ”た状態の「気をつけ!」の姿勢でうつ伏せになり、床からの圧迫と”引き上げ”によって胸部や腹部の動きを最小限に抑えて呼吸をすると、背中が動き(膨らみ)、あたかも背中に空気が入っているように感じられませんか?
この呼吸を、苦しくても維持する苦行が・・・・・バレエです。慣れてくると自然に気にしなくてもできるはずです。
ただ、心肺機能を高めることによって、この苦しみを最小限に抑えることが可能です。
心肺機能を高めるには、個々人の現状における限界値に近い有酸素運動を少しずつ反復していくことが必要なのですが、バレエに最適化された最も優れたトレーニングというのは、なかなか難しいですね。
海外では、ランニングやエアロビックダンス=有酸素ダンスを、ある一定以上の強度で行うことを推奨する方もいらっしゃいます。
今、僕が(プロ向けに)考えているのは”マフェトン理論(※5)”という、持久力スポーツのトレーニング方法を応用できないか?ということや、高地トレーニングのように低酸素状態で行うレッスンができないか?ということですが、これにはまずバレエ動作・運動をスポーツ科学的に解析・解明する必要があると思いますので、安易に実践できません。
※5
これは僕が20代前半、今から12,3年前に話題になった理論で、これにかなり近いことを実際に試したことがあり、非常に効果があります。
■ マフェトン理論 @Wikipedia
現実的には、正しい呼吸をいち早く身に付け、通常の有酸素系スポーツと比較して低酸素な状態で、正しい動きを身につけ、できるだけ多くのレッスンを積み重ねていくことが重要ではないでしょうか?